Text & Interview: 服部のり子
ディズニーの名曲をオーケストラやビッグバンドの演奏で聴く。そのコンサートが回を重ねるごとに人気が高まり、全国ツアーが定着化している。今年も8月29日まで、ビッグバンドによる【ディズニー・ワールド・ビート】ツアーが夏気分を盛り上げていく。
その【ディズニー・ワールド・ビート】がスタートしたのは2019年のこと。コロナ禍での休止を挟み、今年5周年を迎えた。それを記念するライブ・アルバム『ディズニー・ワールド・ビート:ベストライブセレクション』がリリースされた。その選曲にも関わっているのがコンサートの企画に当初から携わり、ステージではバンドリーダーとして指揮を、演奏ではアレンジを手懸けているブラッド・ケリー。日本語を交えたMCや明るい笑顔で会場を大いに沸かせるベテランだ。そんな彼にライブ・アルバムのことや、ディズニー音楽の魅力など、長年ディズニーに関わってきたからこその視点で語ってもらった。
──長いキャリアのなかで、どのようにディズニー音楽に関わってきたのか、いろいろなストーリーをお持ちかと思うので、そこからお話を聞かせください。
ブラッド・ケリー:始まりは1973年と、かなり前ですが、トロンボーン奏者としてディズニーの名曲を演奏しました。後にカリフォルニアに移住してから、ディズニーのTV番組のための楽曲を制作するようになります。コンサートツアーに関するプロジェクトにも参加しましたが、ある事情で離れることになり、「もうディズニーとはこれで縁が切れてしまったかな」と思っていた頃に意外な話がもたらされました。日本でオープンする東京ディズニーシーのテーマソングの制作依頼でした。
──日本との関係は、そこから始まったのでしょうか。
ブラッド:そうです。その楽曲制作がきっかけとなり、1998年秋に着工式のために初来日して、オーケストラを指揮しました。その後、「ミスティックリズム」という東京ディズニーシーのショーをはじめ、4つのプロジェクトに関わるなど、多忙な日々を過ごしていました。ところが、2001年9月11日に全てが変わりました。予定していた仕事がすべて中止となるなか、日本からまた連絡が入りました。【ディズニー・オン・クラシック】というコンサートをやりませんか、という話だったのです。

──それが2002年に始まった【ディズニー・オン・クラシック】ツアーの出発点になったんですね。
ブラッド:2002年に東京、大阪、名古屋の3か所でコンサートを行いましたが、最初から成功の手応えがありました。アニメーション映画『リトル・マーメイド』でアリエルのオリジナル・ヴォイスキャストを務めたジョディ・ベンソンを迎えて、全公演がソールドアウト。終演後のミート&グリートには興奮したファンが押し寄せて、その熱狂ぶりに驚いたのと同時に、成功を確信しました。実際に2回目以降のツアーは、規模が拡大していき、2008年に韓国、2015年にはシンガポールと台湾のアジアツアーを行ったこともあります。
──その成功によって、ブラッドさんは1年の半分近く、約150日も日本で過ごすようになったんですね。
ブラッド:はい。それもあって日本語を学ぶようになりました。今でも勉強は続けていますよ(笑)。それからアメリカ人の私が日本にいて、気が付くことがありました。それはレストランなどでストレートなジャズを頻繁に耳にすることです。その発見が今年もツアーを行う【ディズニー・ワールド・ビート】の企画につながりました。2019年に最初のツアーがあり、途中でコロナ禍によって休止を余儀なくされましたが、2022年から再開させて、今年で5回目を迎えることができました。
──ということは、この【ディズニー・ワールド・ビート】は、ブラッドさんの発案だったんですね。
ブラッド:そうです。LAの私の自宅でミーティングをした時のエピソードですが、みんなでアイディアを出し合っていた時に、日本の責任者から【ディズニー・ワールド・ビート】というタイトルが提案された時は、少々疑問でした。ビッグバンドによるストレートなジャズを想定していたのに、なぜ“ワールド・ビート”なのか。でも、彼は譲りませんでした(笑)。そこから“ワールド”という言葉がインスピレーションとなり、シタールや打楽器などワールドミュージックの要素を取り入れるきっかけになりました。その結果、ビッグバンドの枠を超えたコンサートが出来上がったのです。また、音楽界に入った当初からの夢だった、お互いに理解しあい、信頼できる仲間と組んだバンドで活動する、ということを【ディズニー・ワールド・ビート】で実現させることができました。

──そのワールドミュージックの要素ですが、アルバム『ディズニー・ワールド・ビート:ベストライブセレクション』を聴くなかで、たとえば、「君のようになりたい」のイントロでシタールの演奏が流れてきます。それによって映画『ジャングル・ブック』の舞台がインドだったことを思い出しました。
ブラッド:そのとおり! シタールを取り込んだことで、「君のようになりたい」に映画『ジャングル・ブック』の舞台の空気感を加えることができたと思っています。コンサートではインドのダンスも披露されます。その演出に関しては、ヴォーカル・ディレクターのマンディ・ディクソンを褒めてあげたいです。彼女はダンサーでもありまして、今では他の楽曲でもダンスパフォーマンスを取り入れています。
──漠然とした質問になりますが、アレンジ、または演奏するからこそわかるディズニー音楽の魅力は、どこにあると思われますか?
ブラッド:なによりもディズニーは、世界最高の才能と仕事をしているということです。優れた才能を持つ人がアイディアを磨き、発展させていく過程で、彼らの天才的な才能がさらに際立っていく。天才が生み出すものが無条件に素晴らしいのではなく、チーム一丸となって制作に挑むなかで、不要なものは省かれて、最高のものだけが残る。そうやって名曲が生まれてくるのだと思います。

──そういう才能のなかで、あなた自身がリスペクトする人はどなたですか?
ブラッド:ひとりは、ハワード・アシュマンです。史上最高の作詞家であり、ソングライターであり、アラン・メンケンという素晴らしいパートナーにも恵まれました。彼が手懸けた映画『リトル・マーメイド』が公開されるまで、ディズニーのアニメーション部門は、低迷気味でしたが、この作品の大ヒットによって見事に復活しました。ハワード・アシュマンとアラン・メンケンの2人が作り出した楽曲は、映画『アラジン』に至るまでいずれも素晴らしい。彼らは天才です。
また、2人より前の時代ではシャーマン兄弟が伝説的な曲を多く書いていますし、『星に願いを』を書いたネッド・ワシントンも才能あるひとりだと私は思っています。
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